大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和49年(つ)17号 決定 1974年9月02日

請求人 滝田稔

主文

本件請求を棄却する。

理由

一  本件請求の要旨は、「請求人は、昭和四九年一月五日付書面を以つて別紙被疑事実につき、被疑者飯田忠男、同樋口建彦、同内田昌治を東京地方検察庁検察官に告発したところ、同年二月二三日同庁検察官より被疑者らを不起訴処分に付した旨の通知を受けたが、請求人は検察官の右処分に不服があるので、刑事訴訟法第二六二条第一項に則り事件を裁判所の審判に付することを請求するものである。なお、本件付審判請求書を刑事訴訟法第二六二条第二項所定の期間内に提出することができなかつたのは、請求人が刑務所在監人であり、右請求書の作成・発送等につき在監人として刑務所内における事務手続等種々の制約を受けたことによるものであつて、それは不可抗力によつて法定の期間内に本件付審判請求書を提出できなかつたものであるから、本件付審判の請求は適法な請求として取り扱われるべきである」というにある。

二  よつて按ずるに、記録によれば、請求人が昭和四九年一月五日付書面を以つて、別紙被疑事実につき、被疑者飯田忠男、同樋口建彦、同内田昌治の三名を東京地方検察庁検察官に告発したこと、東京地方検察庁検察官はこれを特別公務員暴行陵虐致死被疑事件として立件捜査したうえ同年二月一九日右被疑者らをいずれも嫌疑なしとして不起訴の裁定をし、即日書面を以つてその旨告発人たる請求人に通知し、この通知書は同月二三日請求人に到達したこと、被疑者らに対する右各処分を不服とした請求人は、いずれも刑事訴訟法二六二条第一項に基づく付審判請求をする旨を記載した「付審判請求書」と題する同年六月二四日付書面を作成し、右書面は、同月二五日簡易書留郵便として東京地方検察庁検察官宛に送付され、同月二七日同庁検察官に到達受理されたことが認められる。

右の事実関係によれば、本件付審判請求書は刑事訴訟法第二六二条第二項所定の七日の期間を経過した後に東京地方検察庁検察官に到達したことが明らかであるから、本件付審判請求は、請求権消滅後になされたものとして不適法なものというべきである。

ただ、請求人は、本件付審判請求書を刑事訴訟法第二六二条第二項の期間内に提出することができなかつたのは不可抗力によるものであるから、本件請求は適法な請求として取り扱われるべきであると主張し、その趣旨、刑事訴訟法第二六二条第一項の請求にも、同法第三六二条(上訴権回復)の規定が準用ないし類推適用さるべきであると主張するがごとくであるけれども、そもそも上訴とは裁判所(裁判官)のした裁判をその名宛人として受けた者(又はそれに準ずる者)において、該裁判が確定することによつて自己が蒙ることのあるべき法律上の不利益を免れるために上訴裁判所に対し救済を求める制度であるのに対し、本件のような刑事訴訟法第二六二条第一項の付審判の請求は、一定の犯罪につき、告訴・告発した者において検察官のした不起訴処分について不服がある場合に事件を裁判所の審判に付することを請求するものであり、それはあくまで、起訴便宜主義の下における検察官の起訴(不起訴)権の運用を側面から監視し、その公正適切であることを担保するために認められたものであり、ひとしく国家機関の処分に対する不服の申立であり、かつ、訴訟法上認められた権利の行使ではあるが、裁判における被告人の如く、該処分によつて直接法律上の不利益を受けるおそれのある者の救済制度ではないという点において、両者はその目的・性格をまつたく異にするものであるから、上訴について規定されている刑事訴訟法第三六二条は、同法第二六二条第一項の付審判請求に準用ないし類推適用することはできないものと解する(このことは、在監人のする付審判請求に刑事訴訟法第三六六条第一項の準用ないし類推適用の余地がないとした東京高等裁判所昭和四二年二月二〇日判決((高等裁判所刑事判例集第二〇巻第一号六五頁))の趣旨に照しても明らかであると考える。)。

そうだとすれば、本件付審判の請求を適法な請求と認める余地はないから、刑事訴訟法第二六六条第一号に則り、主文のとおり決定する。

別紙

被疑者飯田忠男、同樋口建彦、同内田昌治の三名は、いずれも小菅刑務所勤務の看守で、独居舎房の看守等の業務に従事していたものであるが、共謀のうえ、昭和四二年二月一五日ころ、右刑務所において、受刑者岩井昭和が同大河原鉄弥との殴り合いの喧嘩により傷害を負つた際、右岩井は早急に適切な医療措置を受けなければ生命に危険のある状態にあつたにもかかわらず、同日ころから同月二八日ころまでの間、同人に対し医師の診察を受けさせる等なんら必要とされる措置を講じないのみならず、房内に病臥中の同人に対し布団を引きはがしたうえ足蹴りする等の暴行陵虐の行為をなし、よつて同人をして同月二八日午前三時五〇分ころ脳硬膜下出血により死亡するに至らしめたものである。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例